Scaling the Horizonとは
「視野を伸ばす」アプローチの要点
Scaling the Horizonとは、AIの性能を上げる方法についての新しい考え方です。これまでは「モデルを大きくすれば賢くなる」が主流でしたが、この論文は別の道を示します。少ないパラメータで長い作業を回す設計思想は、LongCat-2.0とは の解説記事で扱った巨大MoEとは対照的で、あわせて読むと違いがはっきりします。
パラメータではなく“視野”を伸ばす
論文の主張はタイトルにそのまま表れています。モデルの規模を大きくするのではなく、エージェントの「視野」を伸ばすことで、35BのMoEモデルが1兆パラメータ級の性能に到達する、というものです。
"We introduce Agents-A1, a 35B Mixture-of-Experts Agentic Model that reaches trillion-parameter-level performance by scaling the agent horizon." — 論文アブストラクトより
ここでいう「視野」とは、モデルがどれだけ長い一連の流れを見通して行動できるか、という意味合いです。1回の応答で完結させるのではなく、調べて・考えて・次の手を打つ、という長い過程を扱える幅を広げる、と捉えると分かりやすくなります。
約45Kトークンの軌跡で学習
視野を伸ばすための具体策が、学習データの作り方です。Agents-A1は、平均約45Kトークンにおよぶ長い「知識と行動の軌跡」で学習しているとされています。
"trained on agentic trajectories averaging 45K tokens" — GitHub リポジトリの説明より
短い一問一答ではなく、長い作業の流れをまるごと学ばせることで、モデルは「先の手順まで見通して動く」ことを覚えます。これが、規模を増やさずに実務的な性能を引き上げる狙いです。
Agents-A1の正体と公開状況
Agents-A1 の基本情報
考え方だけでなく、モデルそのものも公開されています。誰が作り、どこまで使えるのかを整理します。
上海AI研究所の35B MoE(arXiv 2606.30616・約50著者)
作り手は、中国を代表する研究機関です。論文の著者欄には「Agents-A1 Team Shanghai Artificial Intelligence Laboratory」と記され、上海AI研究所によるものだと分かります。 論文はarXiv 2606.30616として2026年6月29日に公開され、約50名が著者に名を連ね、翌30日にはHugging Face Daily Papersで注目を集めました。
"Scaling the Horizon, Not the Parameters: Reaching Trillion-Parameter Performance with a 35B Agent" / "Agents-A1 Team Shanghai Artificial Intelligence Laboratory" — 論文タイトルおよび著者欄より
Apache 2.0で公開・ベースはQwen3.5
利用条件も開かれています。モデルの重みはApache 2.0ライセンスで公開されており、商用を含めて幅広く使えます。 ベースにはQwen3.5-35B-A3Bが使われ、文脈は最大262Kトークンまで拡張されています。
"License: Apache 2.0" — モデルカードのライセンス表記より
オープンなライセンスで公開されているため、研究者や開発者が実際に手元で検証しやすいのも特徴です。
性能と“視野”を伸ばす意味
論文で報告された主な結果
1兆パラメータ級モデルとの比較。出典: 論文(arXiv 2606.30616)。
「35Bで1兆級」は大胆な主張ですが、どんな実務的な意味があるのかを最後に整理します。
1兆級モデルと肩を並べるベンチマーク
論文は、規模で大きく上回るモデルとの比較を示しています。Agents-A1は、1兆パラメータ級のKimi-K2.6やDeepSeek-V4系と並べられ、長期探索のSEAL-0や指示追従のIFBenchなどで肩を並べる結果が報告されています。 これらの数値は論文(arXiv 2606.30616)に基づくもので、モデルの規模だけでは性能が決まらないことを示す材料になっています。
小さいモデルを長く走らせる意味
Agents-A1が示すのは、「大きくする」以外に「長く見通す力を鍛える」という選択肢です。規模の小さいモデルでも、長い作業の流れを学ばせれば実務的な性能に届くなら、動かすコストを抑えつつ役立つエージェントを作れる可能性があります。手元の環境で小さめのモデルを実用に使う考え方は、ローカルLLMの実務活用ガイドとも通じます。
まとめると、Scaling the Horizonは「パラメータ競争とは別の勝ち筋」を提示した研究です。オープンに公開されているため、この発想が本物かどうかは、実際のタスクで試して確かめられます。
長い作業の資料をこうしたエージェントに渡すときは、あらかじめMarkdown形式に整えておくと、構造が保たれて扱いやすくなります。



