DeepSeek V4-Flash 0731とは
DeepSeek-V4-Flash-0731とは、中国のAI企業 DeepSeek が2026年7月31日に公開した大規模言語モデルです。それまで提供されていた Preview 版を置き換える正式リリース版という位置づけになります。なお公開日はモデルカード本文には書かれておらず、Hugging Face リポジトリのコミット履歴で初期コミットが2026年7月31日であることが確認できます。名前の「0731」もこの日付と一致します。
DeepSeek-V4-Flash-0731 の基本情報(公式モデルカードによる)
reasoning_effort = low / high / maxhigh / max 使用時)DeepSeek-V4-Flash-0731 is the official release of DeepSeek-V4-Flash, superseding the preview version, with substantially enhanced agentic capabilities. / This repository and the model weights are licensed under the MIT License. / The `reasoning_effort` parameter now supports three levels — `low`, `high`, and `max` — which control how much deliberation the model spends before answering. / For the `high` and `max` reasoning effort levels, we recommend a maximum output length of 384K tokens. — 表に挙げた位置づけ・ライセンス・推論設定・推奨出力長の各項目より
強化されたのは「エージェントとしての能力」
公式の説明で軸に据えられているのは、対話の賢さではなくエージェント能力です。ツールを呼び、コードを書き、複数の手順を自分で回していく用途を指します。モデルカードは「エージェント能力を大幅に強化した」正式リリースだと明言しています。
構造そのものは新設計ではありません。同社が別途公開している DeepSeek-V4-Flash-DSpark と同じモデル構造で、投機的デコード(先に候補を高速に生成して検証する高速化手法)のモジュールが最初から付いています。では何を変えて性能が上がったのか。ここは公式が説明していません。モデルカードが述べているのは「構造は同じ」「エージェント能力を大幅に強化した」までで、学習の手順をどう変えたかには触れていないためです。
技術報告書のタイトルが「Towards Highly Efficient Million-Token Context Intelligence」であることからも、狙いが効率と長文脈にあることが読み取れます。
DeepSeek-V4-Flash-0731 is the official release of DeepSeek-V4-Flash, superseding the preview version, with substantially enhanced agentic capabilities. It has the same model structure as DeepSeek-V4-Flash-DSpark, i.e. it comes with a speculative decoding module attached. / title={DeepSeek-V4: Towards Highly Efficient Million-Token Context Intelligence} — 正式リリースの位置づけ・モデル構造および技術報告書の題目より
パラメータ数は公式が数値で示していない部分がある
先に用語を押さえておきます。活性パラメータ数とは、1つのトークンを処理するときに実際に計算へ使われるパラメータの数です。このモデルのように専門家混合(MoE)と呼ばれる構成をとる場合、全パラメータのうち一部だけが毎回動きます。したがって総パラメータ数が大きくても、活性パラメータ数が小さければ計算量と応答速度は有利になります。今回の「小さいモデルが最上位を上回った」という主張は、この数字を指しています。
ここは注意が要ります。Hugging Face のモデルページには総パラメータ数として 304B と表示されますが、これはリポジトリの重みファイルから Hugging Face 側が自動集計したもので、DeepSeek 自身が書いた数値ではありません。そして公式モデルカードは活性パラメータ数を数値で書いていません。「活性パラメータ数がはるかに小さい」という比較の言葉があるだけです。
一部の解説記事は「284B総 / 13B活性」という数字を出していますが、公式が示した数値ではなく、自動集計値の 304B とも一致しません。投機的デコードのモジュール分を数に含めるかどうかで集計範囲が変わりうるため、どちらかが誤りと決めつけられる状況でもありません。本記事では確定した数値として扱わないという扱いにします。活性パラメータ数を根拠に費用や速度を見積もるなら、公式の追加情報を待つのが安全です。
同じくオープンウェイトの大型モデルであるKimi K3は重みの実サイズや推奨構成まで公開しているので、比較したい場合はそちらも参考になります。
DeepSeek-V4-Flash-0731 outperforms DeepSeek-V4-Pro (Preview) on benchmarks listed below despite its far smaller activated parameter count, and is broadly competitive with the strongest proprietary models available. — 活性パラメータ数について、公式が数値ではなく比較の言葉のみを用いている点の根拠として
公開ベンチマークで何が起きたか
発表の中心はベンチマークです。公式モデルカードは9項目の比較表を載せ、そのすべてで自社最上位の DeepSeek-V4-Pro(Preview)を上回ったとしています。
公式モデルカードのベンチマーク比較(数値は開発元による測定)
| ベンチマーク | V4-Flash-0731 | V4-Flash (Preview) | V4-Pro (Preview) | GLM-5.2 | Opus-4.8 |
|---|---|---|---|---|---|
| Terminal Bench 2.1 | 82.7 | 61.8 | 72.1 | 81.0 | 85.0 |
| NL2Repo | 54.2 | 39.4 | 38.5 | 48.9 | 69.7 |
| Cybergym | 76.7 | 38.7 | 52.7 | — | 83.1 |
| DeepSWE | 54.4 | 7.3 | 12.8 | 46.2 | 58.0 |
| Toolathlon-Verified | 70.3 | 49.7 | 55.9 | 59.9 | 76.2 |
| Agents' Last Exam | 25.2 | 15.8 | 16.5 | 23.8 | 25.7 |
| AutomationBench Public | 25.1 | 10.8 | 12.8 | 12.9 | 27.2 |
| DSBench-FullStack(社内) | 68.7 | 37.0 | 41.8 | 61.8 | 71.6 |
| DSBench-Hard(社内) | 59.6 | 25.8 | 31.1 | 54.5 | 71.7 |
伸びが大きいのは「エージェント型のコーディング」
数字の並びを見ると、伸び幅がとくに大きいのは Preview 版が苦戦していた領域です。DeepSWE は 7.3 から 54.4 へ、Cybergym は 38.7 から 76.7 へ。モデル構造は Preview 版と同じ系統のまま、この差が出ています。
比較対象として置かれているのはGLM-5.2とClaude Opus 4.8です。GLM-5.2 に対しては値が公表されている8項目すべてで上回り(Cybergym は GLM-5.2 側の値が無く比較できません)、Claude Opus 4.8 に対しては全項目で下回っています。「最強になった」ではなく「オープンウェイトの中で上位に食い込み、最上位の商用モデルを射程に捉えた」というのが表の実像です。
この数値は開発元の自己申告である
ここを読み飛ばすと数字を誤解します。公式は測定条件を注記に書いており、そこに重要な前提が2つあります。
1つは、公開ベンチマークのコードエージェント課題を DeepSeek Harness の minimal モードで測っていること。ハーネスとは、モデルにツールを渡して評価課題を実行させる実行枠組みのことで、公式は「エージェントの枠組みとして」使ったと書いています。そしてそのハーネスは注記の時点で "to be released"(未公開) です。同じ土俵で他社モデルを測り直すことが、現時点では誰にもできません。この条件で測ったコードエージェント課題については、reasoning_effort を max、temperature = 1.0、top_p = 0.95 としたことも明記されています。
もう1つは、9項目のうち DSBench-FullStack と DSBench-Hard の2つが社内テストセットだという点です。外部から内容を検証できないうえ、この2つについては測定条件も注記されていません。
数値そのものが疑わしいという話ではありません。第三者が再現していない段階の数字であるという前提で読む、ということです。
DeepSeek-V4-Flash-0731 outperforms DeepSeek-V4-Pro (Preview) on benchmarks listed below despite its far smaller activated parameter count, and is broadly competitive with the strongest proprietary models available. / For the Code Agent tasks among the public benchmarks above, DeepSeek-V4-Flash-0731 is evaluated with the minimal mode of DeepSeek Harness (to be released) as the agent framework, using the `max` reasoning effort level with `temperature = 1.0, top_p = 0.95`. / DSBench-FullStack is an internal full-stack development test set; DSBench-Hard is an internal test set of difficult coding-agent problems. — ベンチマークの主張および測定条件・社内テストセットに関する注記より
実際に動かすときに押さえる3点
重みが公開されている以上、自分の環境で動かせます。ただし今回のリリースは従来と手順が変わった箇所があるので、そこを知らないとつまずきます。
チャットテンプレートが同梱されていない
まずここです。このリリースには Jinja 形式(テンプレートに変数を差し込む記法の一種)のチャットテンプレートが含まれていません。代わりに encoding フォルダが用意され、OpenAI 互換形式のメッセージをモデルへの入力文字列に変換する Python スクリプトと、出力を解析する方法が置かれています。
つまり従来どおり apply_chat_template を呼ぶ書き方はそのまま通りません。公式のエンコード関数を通す前提で組み直す必要があります。メッセージ配列を組み立てる工程が入るので、JSON の構造を目視で確認しながら進めると事故が減ります。
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This release does not include a Jinja-format chat template. Instead, we provide a dedicated `encoding` folder with Python scripts and test cases demonstrating how to encode messages in OpenAI-compatible format into input strings for the model, and how to parse the model's text output. — チャットテンプレートが同梱されず、専用のエンコード方式に変わった点に関する記述より
reasoning_effortは3段階になった
推論の強さは low / high / max の3段階です。答えを出す前にどれだけ考えるかを決めるパラメータで、公開ベンチマークのコードエージェント課題は max で測られています。表の数字を目安に使うなら、設定を合わせないと比較になりません。
あわせて出力長にも注意が要ります。high と max を使う場合、公式は最大出力長384Kトークンを推奨しています。枠を小さく取ると、思考の途中で打ち切られます。
The `reasoning_effort` parameter now supports three levels — `low`, `high`, and `max` — which control how much deliberation the model spends before answering. / For the `high` and `max` reasoning effort levels, we recommend a maximum output length of 384K tokens. — 推論エフォートの3段階と、推奨される最大出力長に関する記述より
投機的デコードはフラグ1つで有効になる
高速化のための DSpark 投機的デコードは、起動時のフラグで有効化します。vLLM や SGLang といった推論サーバ(モデルを常駐させて API として応答させるソフトウェア)で使う想定です。vLLM なら --speculative-config に method: dspark を渡すだけです。SGLang では --speculative-algorithm DSPARK を指定し、別のドラフトモデルのパスは指定しません(ターゲットとドラフトの重みが同じチェックポイントに入っているためです)。
--speculative-config '{"method":"dspark","num_speculative_tokens":7,"draft_sample_method":"greedy"}'
ハードウェア構成別の手順は、公式が案内している vLLM のレシピと SGLang のクックブックに載っています。ベンチマークの数値まで示されているのは SGLang 側です。
DSpark speculative decoding is enabled with a single flag — add --speculative-config with method: dspark to your vLLM launch command / Enable DSpark with `--speculative-algorithm DSPARK` and do not set a separate `--speculative-draft-model-path` as the target and draft weights therefore come from the same checkpoint. — 投機的デコードの有効化方法と、ドラフトモデルを別指定しない理由に関する記述より
まとめ:数字より「MITで手に入ること」が効く
DeepSeek-V4-Flash-0731 の要点は、活性パラメータ数の小さいモデルが、同じ会社の最上位モデルを公式提示の9ベンチで上回ったという一点に尽きます(うち2つは社内テストセットです)。モデル構造は据え置きのままこの差が出たことは、規模だけが性能を決めるわけではないことを示しています。何を変えて上がったのかについては、公式が説明していません。
ただしベンチの数値は開発元の自己申告で、測定に使ったハーネスは未公開です。表の数字を根拠に導入を決めるのは早いでしょう。確度が高いのはむしろライセンスのほうです。MIT で重みが手に入るという事実は測定条件に左右されません。自社の課題で実際に走らせて、手元の基準で測る。それが今できるいちばん確実な評価方法です。設定ファイルやメッセージ配列を組むときは、構造を整えてから流すと詰まりにくくなります。
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