Geekbench 7とは(何が変わったか)
Geekbench 7 の基本情報(公式値)
スマートフォンやパソコンの性能の話になると、まず出てくるのが Geekbench のスコアです。その本体が世代交代しました。
Geekbench 7 の定義と対応OS
Geekbench 7(ギークベンチ7)とは、Primate Labs が開発するクロスプラットフォームのベンチマークソフトの最新版です。CPU と GPU の性能を測るための新しいワークロードと、改良されたワークロードの両方を備えており、Android・iOS・Windows・macOS・Linux の5つのOSで公開日から使えます。
"Geekbench 7, the latest version of Primate Labs' cross-platform benchmark, has arrived and features both new and improved workloads to measure the performance of your CPUs and GPUs. Geekbench 7 is available for download today for Android, iOS, Windows, macOS, and Linux." — Geekbench 公式ブログより
ワークロードとは、性能を測るために走らせる作業のひとかたまりです。写真の編集やファイルの圧縮、Webページの表示といった実際の作業を模した処理を実行し、どれだけ速くこなせるかでスコアを出します。5つのOSで同じ物差しが使えるため、iPhone と Windows パソコンのように性格の違う機器も横並びで比べられます。生成AIの動かし方まで含めた機器選びは、ローカルLLMでコーディングする実践ガイド でも触れています。
料金(個人利用は無料)
導入のハードルは低いままです。個人利用は無料で、今後も無料のままだと公式が明記しています。
"Geekbench 7 is free (and will remain free) for personal use. Download it today and see how your devices measure up." — Geekbench 公式ブログ「Launch Sale」節より
有料版の Geekbench 7 Pro は Primate Labs Store で販売されています。公開記念で8月6日まで20%オフ。公式が対象として挙げているのは、買い替えを検討している個人と多数のマシンを管理する情報システム担当です。
"We're celebrating the launch with 20% off Geekbench 7 Pro on the Primate Labs Store until August 6. Whether you're a tech enthusiast researching your next upgrade or an IT professional managing a fleet of machines, there's never been a better time to find out what your hardware can really do." — Geekbench 公式ブログ「Launch Sale」節より
手元の1台を測るだけなら無料版で足ります。
Geekbench 6 からの変更点まとめ
大きな変更は3つあります。CPU側の新ワークロード、マルチコアの設計刷新、GPU側の方向転換です。表の「対応API」は、外部のソフトからGPUを呼び出すための仕組みのことです。
| 観点 | Geekbench 6 | Geekbench 7 |
|---|---|---|
| メディア処理 | 従来のワークロード | AV1エンコード・Opus圧縮・Whisperでの字幕生成を追加 |
| マルチコア | (公式の言及なし) | 実アプリでマルチスレッドな処理のみマルチコアで測定 |
| GPU の軸足 | (公式の言及なし) | 機械学習・コンテンツ制作を重視 |
| GPU 対応API | OpenCL・Vulkan・Metal | OpenCL・Vulkan・Metal・CUDA |
| ゲーム系 | なし | Jolt Physics によるGame Physics を追加 |
| データセット | 従来サイズ | より大きく多様なものへ更新 |
いずれも「実際のアプリの動きに近づける」方向で揃っています。数字を大きく見せる変更ではなく、数字の意味を実態に寄せる変更です。
CPU側の刷新とAI文字起こし
追加された主なCPUワークロード
CPU側でいちばん目を引くのは、AI を含むメディア処理の追加です。動画会議や字幕付き再生といった、いまの使われ方に合わせたワークロードが入りました。
新しいメディアワークロード(AV1・Opus・Whisper)
追加されたのは3つのメディア処理です。Geekbench 7 は音声と映像のエンコード・デコード・処理をCPUがどれだけこなせるかを測る新しいワークロードを備えており、ビデオ会議・画面共有・日常的なコンテンツ視聴の裏側にある作業を模しています。
"Geekbench 7 includes new media workloads that measure how well your CPU handles audio and video encoding, decoding, and processing. The workloads model the tasks behind video conferencing, screen sharing, and everyday content consumption." — Geekbench 公式ブログ「New Media Workloads」節より
エンコードは映像や音声を圧縮して保存できる形にすること、デコードはそれを再生できる形に戻すことです。中身は次の3つ。AV1 という映像圧縮方式で画面共有の映像をエンコードするもの。Opus(オーパス)という音声圧縮方式で音楽と話し声を圧縮するもの。そして Whisper(ウィスパー)という音声認識モデルでライブ字幕を生成しながら、映像と音声をデコードするもの。
"Decode video and audio while generating live captions with the Whisper speech recognition model, modeling video playback with automatic subtitles enabled." — Geekbench 公式ブログ「New Media Workloads」節より
3つ目が、いわゆるAIワークロードです。自動字幕をオンにして動画を見る状況をそのまま再現しています。再生しながら音声を文字に起こすので、機器には映像のデコードと音声認識が同時にかかります。オンライン会議や動画視聴が日常になったいま、この負荷を測る意味は小さくありません。
ゲーム物理・写真編集・写真ライブラリ
メディア以外にも手が入っています。ゲームで実際に使われる Jolt Physics 物理エンジンを土台にした Game Physics ワークロードが加わり、Photo Editor はより実務的な編集作業を幅広く再現するよう拡張されました。
Photo Library は JPEG XL や DNG といった最近の画像形式の取り込みと処理に対応しました。JPEG XL は JPEG の後継として設計された画像形式、DNG はカメラの生データ(RAW)を保存する形式です。スマートフォンで撮った写真をそのまま扱う場面が増えたことへの対応です。
マルチコアの考え方が変わった
今回の変更で最も影響が大きいのは、マルチコアの測り方です。Geekbench 7 では、実際のアプリでマルチスレッド動作する処理だけが、マルチコアで測られるようになりました。
"In Geekbench 7, a workload only runs in multi-threaded mode if the task it models actually runs multi-threaded in real applications. For example, the HTML5 Browser test isn't included in the multi-threaded suite because web browsers are single-threaded (or lightly threaded)." — Geekbench 公式ブログ「A Smarter Multi-Core Benchmark」節より
具体例として挙がっているのが HTML5 Browser のテストです。Webブラウザは単一スレッド、あるいは軽くしかスレッドを使わない作りなので、マルチスレッドのテスト群から外れました。現実の作業がすべてマルチスレッドなわけではなく、そうでないふりをするとスコアが歪むだけで機器について何も分からない、というのが公式の説明です。
"Not every task in the real world is multi-threaded, and pretending otherwise distorts scores without telling you anything useful about your device." — Geekbench 公式ブログ「A Smarter Multi-Core Benchmark」節より
結果として、Geekbench 7 のマルチコアスコアは「コアを全部使い切ったときの理論値」から「実際にコアを使う作業でその機器がどれだけ働くか」へ寄りました。多コアCPUの数字は以前より控えめに出るかもしれません。そのぶん体感に近づくと考えられます。
GPUベンチマークとCUDA対応
GPUベンチマークの追加ワークロード
GPU側は方向そのものが変わりました。汎用的な演算性能から、機械学習と映像・画像の制作へと軸足が移っています。
機械学習ワークロードの追加
GPUの性能を左右するものが変わった、という認識が変更の背景にあります。GPUベンチマークは、GPU性能をますます規定するようになった機械学習とコンテンツ制作のアプリケーションへ、新たに焦点を合わせました。
"The GPU benchmark has a new focus on the machine learning and content creation applications that increasingly define GPU performance." — Geekbench 公式ブログ「A Refreshed GPU Benchmark」節より
機械学習系として入ったのは3つ。映像内の顔を追跡してリアルタイムでフィルタ効果をかける処理、機械学習で画像を拡大する処理、ビデオ会議の映像で背景をぼかす処理です。それぞれSNSアプリの顔フィルタ、制作ソフトの超解像、バーチャル背景という実在の機能を模しています。抽象的な行列演算ではなく、一般の人が毎日触っている機能で測る設計です。
画像編集・生成系ワークロード
制作寄りのワークロードも増えました。RAW現像、LUT を使った映像のカラーグレーディング、パストレーシング、流体シミュレーションが新たに加わっています。
LUT(ルックアップテーブル)は映像の色調を一括で変換する対応表、パストレーシングは光の経路をたどって陰影を計算する描画手法です。写真や動画の制作、3D描画など、GPUに重い負荷がかかる作業が並びます。ゲーム性能だけでGPUを語れなくなった現状がそのまま出ています。
CUDA が対応APIに加わった
NVIDIA の GPU を使う人にとっては、ここが最大の変更点です。要望に応える形で、CUDA が OpenCL・Vulkan・Metal と並ぶ対応API(外部のソフトからGPUを呼び出す仕組み)として GPUベンチマークに加わりました。
"And by popular demand, CUDA joins OpenCL, Vulkan, and Metal as a supported API in the GPU Benchmark. You can now measure your NVIDIA GPU using the API that powers its most demanding applications." — Geekbench 公式ブログ「A Refreshed GPU Benchmark」節より
CUDA とは、NVIDIA が自社GPU向けに提供している演算の仕組みです。AI の学習や推論を扱うソフトでは広く使われています。公式は、そのGPUの最も要求の厳しいアプリケーションを動かしているAPIで測れるようになった、と書いています。手元のGPUでAIモデルを動かす話はローカルLLMでコーディングする実践ガイド で扱っています。
スコアの読み方と注意点
Geekbench 7 のスコアを読むときの前提
新しい物差しが出るたびに起きるのが、旧バージョンの数字との取り違えです。Geekbench 7 のスコアをどう扱えばいいかを整理します。
Geekbench 6 のスコアと並べて比べられない理由
6 と 7 のスコアを並べる読み方は成立しません。マルチコアの測り方が作り直され、処理するデータセットも更新されているため、両者は同じ物差しではありません。
"The multi-core benchmark in Geekbench 7 has been redesigned to better reflect how real applications behave." — Geekbench 公式ブログ「A Smarter Multi-Core Benchmark」節より
機器Aを Geekbench 6 で、機器Bを Geekbench 7 で測って優劣を語ることはできません。比較したいときは両方を同じバージョンで測り直します。ネット上のスコア表も、どのバージョンで測られた数字かによって意味が変わります。
データセットが大きくなった影響
負荷の水準も上がっています。Geekbench 6 の公開以降、人々がこなす作業はより重くなり、扱うデータも大きく要求の高いものになったため、ワークロードが処理するデータセットが更新されました。
"Since the release of Geekbench 6, the tasks people perform have become more strenuous, and the data sets they use have grown larger and more demanding. To reflect this, we've updated the data sets the workloads process so they're more challenging for your device and better reflect the files people work with today." — Geekbench 公式ブログ「Larger Data Sets」節より
File Compression にはソースコード・オブジェクトコード・テキスト文書にまたがるアーカイブが、PDF Viewer には公園の地図から技術文書、学術論文までの多様なPDFが加わりました。開発系と画像処理系のワークロードにも素材と画像形式が増えています。実務で扱うファイルに近づいた分、機器にとっては厳しいテストです。
どう使うか
用途をひとつに絞るなら、買い替えの判断材料です。手元の機器と候補の機種を同じ Geekbench 7 のスコアで見比べれば、世代差が数字で見えます。CPUのシングルコアは日常操作の軽快さ、マルチコアは書き出しや変換といった重い処理に対応します。
AI関連の用途を重く見るなら、GPUスコアと測定APIをあわせて確認します。NVIDIA GPU で機械学習を回す前提なら CUDA でのスコア、Mac なら Metal でのスコアが実態に近い数字です。ローカルでAIモデルを動かす際の機器選びはColibrì(コリブリ)でローカルLLMを動かす解説 でも扱っています。
ただし、ベンチマークのスコアが体感のすべてではありません。ストレージの速度、放熱の設計、ソフト側の最適化は、この数字にほとんど表れません。Geekbench 7 は実際のアプリの動きへ寄せて設計を見直した版ですが、判断材料のひとつという位置づけは変わりません。
海外の公式ブログやリリースノートは、たいてい英語のままです。英語のWebページを日本語で読みやすい形に整えたいときは、次のツールが役立ちます。



