飲食店のワイン在庫管理が難しい理由
飲食店の在庫管理の解説の多くは、残量を数えて記録し仕入れ量を決めるという流れで書かれています。手順としては正しい。ただしワインに当てはめると、途中で合わなくなります。理由は商品の性質にあります。
ワイン在庫が合わなくなる3つの原因
ヴィンテージ違いは別の在庫になる
野菜や肉なら「同じ品目」でまとめて数えられます。ワインはそれができません。同じ生産者の同じ銘柄でも、2018年と2020年では仕入値が違い、売値も違い、飲み頃も違う。在庫表に銘柄名だけを持たせていると、この2つが同じ行にまとまって原価計算が合わなくなります。
厄介なのは、見た目で区別しにくいことです。ラベルのデザインは年が変わってもほぼ同じなので、棚から取り出す段階で年号を見落とすと、高いほうを安い値段で出してしまいます。ヴィンテージによる飲み頃の考え方は「ワインの飲み頃とは?熟成の仕組みと今飲むか寝かせるかの見極め方」、営業中の開閉が多い店舗でのセラー温度の考え方は「ワインセラーの温度設定は何度が正解か|保管と提供で変わる」で整理しています。
グラス売りとボトル売りで減り方が違う
ボトルで出れば在庫は1本減ります。グラスで出す場合、1本が数杯に分かれ、営業が終わった時点で「4分の1だけ残ったボトル」が手元にあります。これを在庫として1本と数えるか、0本と数えるか、0.25本と数えるかで、原価率の数字が変わります。
先に決めるのは、開栓した時点で在庫から落とすのか、飲みきった時点で落とすのか。どちらでも構いません。ただし店内で統一されていないと、数えるたびに違う答えが出ます。開栓済みの扱いは次の章で詳しく見ます。
1本あたりの原価が重い
食材のロスは1つ数百円で収まることが多いのに対し、ワインは1本で数千円から数万円です。1本合わないという事実の重みが、他の在庫とは違います。
ここで効いてくるのがセラーの物理的な制約です。公称の収納本数どおりに入らないことがあり、置き場が足りずに棚の外へ仮置きしたボトルが、そのまま在庫表から外れます。
ワインセラーの収納可能本数は、ボルドータイプのボトルを基準にしているものが多いため、ブルゴーニュボトルやシャンパーニュボトルといった太いボトルを入れようと思うと、スペック通りに入らないケースが出てくるんです。
ワインセラーの収納可能本数は、ボルドータイプのボトルを基準にしているものが多いため、ブルゴーニュボトルやシャンパーニュボトルといった太いボトルを入れようと思うと、スペック通りに入らないケースが出てくるんです。 — ワインセラー専門店のコラムより
ワインの棚卸しをどう回すか
棚卸しは記録上の在庫と実物を突き合わせる作業です。ワインの場合、何を1単位として数えるかを決めておかないと、人によって数え方がばらつきます。
棚卸しを回す手順
棚卸しは税務上も避けられない
原価率の把握とは別に、棚卸しには税務上の必要があります。所得税の申告では、その年の1月1日現在の棚卸高を期首、12月31日現在の棚卸高を期末として扱います。年に最低1回、棚卸高を確定させる作業からは逃れられません。
年1回だけまとめてやると、1年分のズレが一度に出てきて原因を追えません。月次で回しておけば、少なくともズレた月までは絞り込めます。
申告する年分の12月31日現在の商品などの棚卸高を入力します。
申告する年分の12月31日現在の商品などの棚卸高を入力します。 — 期末商品(製品)棚卸高の説明より
申告する年分の1月1日現在の商品などの棚卸高を入力します。 — 期首商品(製品)棚卸高の説明より
数える単位は「銘柄+ヴィンテージ」で持つ
在庫表の1行を何にするか。銘柄名だけでは足りません。銘柄とヴィンテージの組み合わせで1行が、ワインでの実務的な最小単位です。同じ銘柄の2018年と2020年は、別の行として並びます。
行数は増えますが、増えた行はそのまま「仕入値の違う別商品」を表しています。ここをまとめてしまうと、原価計算の段階でどちらの値を使うか決められなくなります。生産者名まで列に持たせておくと、似た名前の銘柄を取り違えません。列の設計そのものは「ワインの在庫管理をエクセルで作る方法|列の設計と限界」で扱っています。
開栓済みボトルをどう数えるか
グラス売りをしている店では、営業終了時点で必ず開栓済みのボトルが残ります。これを在庫としてどう扱うかは、提供期限の設定とセットで決めると整理できます。
材料になるのは、開けたワインが実際どのくらい持つのかというデータです。サントリーが2015年に行った実験では、4人で開栓当日・翌日・3日後・1週間後・2週間後に試飲して味わいを数値化しています。結論は、その日のうちに飲みきる必要はない。カジュアルなワインは3日、力強いワインは1週間はおいしく飲める、というものでした。
提供期限を一律「開栓後2日」と決めると、力強い赤ワインをまだ出せる状態で捨てていることになります。銘柄の性格ごとに期限を分ければ、廃棄と品質事故の両方が減ります。保管は冷蔵が原則。同じ実験でも、2週間後の常温保管は傷んだ印象になっています。
★★ カジュアルなワインは3日、力強いワインは1週間はおいしく飲める! ★★
検証方法は、4人のメンバーで「開けた当日、翌日、3日後、1週間後、2週間後」に試飲して、味わいの要素を最高5点で数値化、時間変化を追っていきました。/今回は実験のために常温保管でも試しましたが、一度開けたら原則冷蔵保管するのがいいと思います。 — 実験方法と保管方法についての記述より
スタッフ間でワイン在庫を共有する
1人で管理するなら手元のメモでも回りますが、店舗ではホールとバックヤードで別の人が同じ在庫を触ります。ここで仕組みの差が出ます。
共有方法ごとの崩れ方
エクセルが複数人運用で崩れるところ
エクセルは1人で使う分には自由度が高く、列も好きに足せます。崩れるのは共有した瞬間です。飲食店向けワイン管理サービスのwinecodeは、ワインが増えるほど表が肥大化して探すたびにスクロールが必要になり、更新の手間に加えてスタッフ間でのバージョン違いが頻発すると指摘しています。
版が分かれた時点で、在庫表は「事実の記録」から「誰かの記憶」に変わります。 接客中に在庫を確認したい場面で、最新版がどれか分からないファイルは使えません。
ワインが増えるほど表は肥大化し、探すたびに延々とスクロール。更新の手間がかかるうえに、スタッフ間でのバージョン違いも頻発します。
ワインが増えるほど表は肥大化し、探すたびに延々とスクロール。更新の手間がかかるうえに、スタッフ間でのバージョン違いも頻発します。 — Excel管理の課題を挙げたセクションより
誰がいつ動かしたかを残す
複数人で同じ在庫を触ると、「減らしたはずの本数が戻っている」という食い違いが起きます。これを追えるかどうかが、共有型サービスを選ぶときの分かれ目です。
winecodeはグループ単位で管理し、招待したスタッフ全員が同じデータへリアルタイムでアクセスでき、すべての変更が時系列の履歴として自動記録されると説明しています。棚卸しでズレが出たとき、履歴があれば「いつからズレたか」を絞り込めます。なければ、ズレた事実だけが残ります。
すべての変更は時系列の履歴として自動記録。
グループ単位でワインを管理し、複数スタッフが同時に操作可能。/すべての変更は時系列の履歴として自動記録。 — グループ管理と履歴に関する説明より
招待の手間を減らす
スタッフの入れ替わりがある店舗では、共有の開始と停止が頻繁に発生します。アカウントを作って権限を設定して、という手順が重いと、結局は共有されないまま紙に戻る。よくある落とし方です。
Shelvinの場合、QRコードを相手に提示するだけでセラー情報を共有できる方式です。公式サイトは店舗向けに、従業員全員でリアルタイムに在庫を共有する使い方を挙げています。ただし料金表を見ると、チーム共有機能はPremium側の項目です。
QRコード招待:専用のQRコードを相手に提示するだけで、簡単に登録してワインセラー情報を共有できます。
QRコード招待:専用のQRコードを相手に提示するだけで、簡単に登録してワインセラー情報を共有できます。 — 共有・招待機能の説明より
チーム・店舗共有 ショップ従業員全員でリアルタイムに在庫を共有。接客中もバックヤードの在庫状況をスマートに把握できます。/Premium ¥500 / 月 チーム共有機能 — 前者は「主な機能」、後者は「料金プラン」Premium の掲載項目より
ワイン在庫管理の仕組みを選ぶ
汎用の在庫管理システムとワイン専用のサービスは、得意な部分が違います。どちらを選ぶかは、ワインが売上のどの位置にあるか次第です。
汎用システムとワイン専用の違い
汎用の飲食店向け在庫管理システムは、食材全体を1つの仕組みで見られることが強みです。発注や原価率の管理まで一体で回せます。一方で、ヴィンテージや棚位置といったワイン固有の項目は、自由入力の備考欄で扱うことになりがちです。
ワイン専用は逆です。ワイン以外の食材は見られませんが、年号・生産地・棚の位置といった項目を最初から持っています。ワインが売上の柱で本数も種類も多い店なら専用側、数種類しか置かない店なら汎用側。 ここは迷わなくていい部分です。
導入前に決めておく3点
どちらを選ぶにしても、先に決めておくと導入後の手戻りが減る項目があります。
導入前に決めておくこと
登録の手間そのものを減らしたい場合は、ラベル撮影で銘柄やヴィンテージを自動入力する機能が使えます。ただしAIによる読み取りは推測を含むため、登録後の確認をどう組み込むかは別に決める必要があります。詳しくは「ワインラベルのAI読み取りはどこまで正確か|仕組みと限界」で扱っています。
在庫の内訳を、総数と種類別・産地別の構成としてグラフで見られるサービスもあります。仕入れが赤に寄りすぎていないか、産地が偏っていないか。こういう判断は、リストを追うより図のほうが早く済みます。
在庫レポート:所有しているワインの総数、種類別(赤、白、スパークリングなど)、産地別の内訳をグラフなどの機能を使って視覚的に確認できます。
在庫レポート:所有しているワインの総数、種類別(赤、白、スパークリングなど)、産地別の内訳をグラフなどの機能を使って視覚的に確認できます。 — 在庫レポート機能の説明より
まとめ
飲食店のワイン在庫が合わなくなるのは、数え方が雑だからではなく、ワインという商品が汎用の在庫管理の前提に収まらないからです。同じ銘柄でもヴィンテージが違えば別の在庫になり、グラス売りをすれば1本が端数で残り、1本のズレが食材数十人前に相当します。
棚卸しは税務上も年1回は必要で、所得税の申告では1月1日現在と12月31日現在の棚卸高を使います。年1回だけにすると1年分のズレがまとめて出てくるため、月次で回して原因を追える状態にしておくほうが結局は早く終わります。数える単位は銘柄+ヴィンテージ、開栓済みは提供期限とセットで扱う。この2つを店内で統一するだけで、数える人による差はかなり消えます。
共有については、エクセルは版が分かれた時点で在庫表としての役目を終えます。全員が同じデータを見られること、そして誰がいつ動かしたかが残ることが、棚卸しでズレを追うための条件になります。
ワインの本数と種類が多く、ホールとバックヤードで同じ在庫を見たい場合は、棚の位置まで記録できてQRコードで共有できる Shelvin(App Store) から試すと、今の運用のどこが詰まっているかが見えやすくなります。


