Qwen-Audio-3.0-TTSとは(何ができるモデルか)
基本情報(公式値)
今回のモデルが押し出しているのは対応言語の広さと声を写し取る精度、そして話し方の指示のしやすさです。
定義と提供元
Qwen-Audio-3.0-TTS とは、Tongyi Lab が公開した最新のテキスト読み上げモデルです。同じ系統から Flash と Plus の2種類が提供されます。
"Qwen-Audio-3.0-TTS is our latest text-to-speech model release. It ships as two variants from the same lineage:" — Tongyi Lab 公式ブログより
TTS は text-to-speech の略で、文章を音声に変換する技術のことです。Tongyi Lab は Alibaba Group 傘下のAI研究組織で、大規模言語モデルの Qwen シリーズを手がけているチームでもあります。 今回のモデルはその音声版にあたります。
"We're Tongyi Lab — the AI research institute under Alibaba Group, and the team behind Qwen, Wan, Tongyi Fun, and a growing ecosystem of models and frameworks loved by millions of developers worldwide." — Tongyi Lab 公式ブログ About ページより
公式はこの版で取り組んだ点を4つ挙げています。対応言語の拡大、自然な文章での話し方の指示、細かいタグでの制御、そして参考音声がきれいでないときの頑健さ。いずれも実際に組み込んで使う段階でつまずきやすいところです。
"This release focuses on four things developers actually run into in production: broader language coverage, natural-language style control, fine-grained tag control, and robustness when the reference audio isn't clean." — Tongyi Lab 公式ブログ 冒頭リード部より
Flash と Plus の違い
用途で選び分ける2種類です。Flash は最初の音が返るまでの遅延が300ミリ秒台とされ、リアルタイムの対話向けに調整されています。Plus は速さより自然さと声質の忠実さを優先した高音質生成向けです。
"Flash: tuned for real-time interaction, with a first-packet latency at 300ms-level. Plus: tuned for high-quality generation, where naturalness and timbre fidelity matter more than speed." — Tongyi Lab 公式ブログより
| 観点 | Flash | Plus |
|---|---|---|
| 調整の方向 | リアルタイム対話 | 高音質生成 |
| 最初の音までの遅延 | 300ミリ秒台 | 公式に記載なし |
| 重視するもの | 応答の速さ | 自然さと声質の忠実さ |
| WER/CER 平均 | 3.87(最良) | 3.96 |
| 話者類似度 平均 | 80.44 | 82.75(16言語すべてで1位) |
| 向く用途 | 音声アシスタント・対話 | ナレーション・吹き替え |
最終行の「向く用途」は公式の記載ではなく、上の各行から編集部が整理したものです。選び方は単純です。ユーザーが話しかけて返事を待つ用途なら Flash、収録済みの原稿を高い品質で読ませる用途なら Plus。公式が数字を出しているのは Flash の遅延だけで、Plus 側の遅延は記載がありません。
手元で動く Qwen3-TTS とは別物
名前が似ていて混同しやすいのが、Qwen3-TTS です。こちらは Alibaba Cloud の Qwen チームが開発したオープンソースのTTSモデル群で、モデルの重み(学習結果のデータ)が公開されており、手元の環境にダウンロードして動かせます。
"Qwen3-TTS is an open-source series of TTS models developed by the Qwen team at Alibaba Cloud, supporting stable, expressive, and streaming speech generation, free-form voice design, and vivid voice cloning." — Qwen3-TTS 公式リポジトリのリポジトリ概要(About)より
一方の Qwen-Audio-3.0-TTS は、Model Studio 経由で提供されるホスト型(クラウド側で動かす提供形態)のAPIです。自前のサーバーで重みを動かす前提の話なのか、クラウドのAPIを呼ぶ前提の話なのかで、選択肢もコスト構造も変わります。記事や解説にあたるときは、どちらを指しているかで話の前提が変わります。Qwen シリーズの大規模モデル側の話は Qwen3.8 の解説 もあわせてご覧ください。
日本語を含む16言語と性能
話者類似度(Speaker Similarity・高いほど元の声に近い)
数値は Tongyi Lab 公式ブログの記載値。バーは0〜100スケール。
日本語話者の関心はまず「日本語がまともに読まれるか」です。対応言語と公式が出している2つの指標を確認します。
対応16言語(日本語を含む)
日本語は正式な対応言語に入っています。公式が挙げる16言語はアラビア語・中国語・英語・フランス語・ドイツ語・インドネシア語・イタリア語・日本語・韓国語・マレー語・ポルトガル語・ロシア語・スペイン語・タガログ語・タイ語・ベトナム語です。
"Supported languages (16): Arabic, Chinese, English, French, German, Indonesian, Italian, Japanese, Korean, Malay, Portuguese, Russian, Spanish, Tagalog, Thai, Vietnamese. *Full language support rolling out soon." — Tongyi Lab 公式ブログ「Multilingual Coverage Across 16 Languages」節より
最適化は英語・中国語・日本語・韓国語・ドイツ語を名指ししたうえで全16言語にわたって行われたとされ、日本語もその対象に入っています。中国語については、複数の方言の再現性も改善したとされています。
"Qwen-Audio-3.0-TTS was optimized across English, Chinese, Japanese, Korean, German, and 16 languages total, plus improved fidelity on several Chinese dialects." — Tongyi Lab 公式ブログ「Multilingual Coverage Across 16 Languages」節より
公式ブログのデモ音声には、杭州・陝西・上海の方言による例が並んでいます。
ひとつ条件があります。上の引用の末尾にあるとおり、全言語のサポートは順次展開中と注記されています。16言語すべてが同じ日から同じように使えるとは限りません。
聞き取りやすさ(WER/CER)
読み上げの正確さを示す指標が WER/CER です。Qwen-Audio-3.0-TTS の系統は16言語中10言語で最良の WER/CER を達成し、平均では Flash が3.87、Plus が3.96で、いずれも他システムを平均で上回ったとしています。
"Qwen-Audio-3.0-TTS family demonstrates the strongest overall multilingual intelligibility, achieving the best WER/CER in 10 of 16 languages. Flash delivers the lowest average WER/CER at 3.87, while Plus remains highly competitive at 3.96, both outperforming the other systems on average." — Tongyi Lab 公式ブログ「Multilingual Coverage Across 16 Languages」節より
WER は単語誤り率、CER は文字誤り率のことで、生成した音声を書き起こしたときにどれだけ間違いが出るかを表します。低いほど良い指標です。 数字が小さいほど聞き手は言葉を取り違えにくくなります。
なお比較対象となった「他システム」が具体的にどれを指すかは、公式ブログには書かれていません。他社製品との個別の優劣を、この数字だけから語ることはできません。
声の似せ方(話者類似度)
もうひとつの指標が話者類似度(Speaker Similarity)です。Plus は16言語すべてで1位、平均82.75。Flash は80.44で続きます。
"Plus ranks first across all 16 languages with an average SS of 82.75, while Flash follows at 80.44, demonstrating strong and robust voice-preservation quality across diverse languages." — Tongyi Lab 公式ブログ「Multilingual Coverage Across 16 Languages」節より
こちらは高いほど元の声に近いという指標です。参考にした音声の声色を、生成した音声がどれだけ保てているかを測ります。16言語すべてで首位という結果は、特定の言語だけ得意という偏りが小さいことを示します。
第三者評価についても公式が触れています。Qwen-Audio-3.0-TTS-Plus は、独立した第三者のTTSランキングである Artificial Analysis で現在1位である、というのが公式の記載です。ただし公式が書いているのはこのランキング順位までで、個別のモデル名を挙げた勝敗は述べられていません。
"Qwen-Audio-3.0-TTS-Plus currently ranks #1 on Artificial Analysis, the independent third-party TTS leaderboard." — Tongyi Lab 公式ブログ 冒頭リード部より
話し方の指示とタグ・音声クローン
3つの制御手段
公式が実運用でつまずく点として挙げているのが、この「思ったとおりの喋り方にならない」領域です。この版はそこに3つの手段を用意しています。
自然な文章で話し方を指示する
指示の書き方が平易になりました。音響パラメータを手で調整する代わりに、欲しい話し方を自然な文章で書けます。専門的なタグ付けの知識がなくても、平易な言葉のプロンプトで感情・役柄・場面・話す速さを動かせます。
"You can describe the delivery you want in natural language instead of hand-tuning acoustic parameters. Simple prompts with plain language steer emotion, role, scenario, and pace without any labeling expertise." — Tongyi Lab 公式ブログ「Style Control In Natural Language」節より
公式が示している例のひとつが「Say the following angrily.(次の文章を怒った調子で言って)」という指示です。もう少し込み入った例として「大ホールに響く声で、ゆったりした間合い、わずかな残響、歓迎の部分で抑揚を上げる。スタジアムのアナウンサーが観客を迎える感じ」という指示も挙がっています。場面を言葉で描写すれば、そのとおりの読み方に寄せられるという設計です。
"Say the following angrily." / "Large hall projection, broad pacing, slight reverberant feel, lifted intonation on the welcome — a stadium announcer welcoming the crowd." — Tongyi Lab 公式ブログ「Style Control In Natural Language」節の指示例より(2つの例は原文では離れた位置にあり「/」で区切って引用)
タグで息づかいや笑いを入れる
細部はタグで詰めます。息づかい、笑い、口調の変化のように、言葉以外の要素を正確に制御したいときは、対象のテキストに直接タグを埋め込みます。
"When you need precise control over the non-verbal details — a breath, a laugh, a shift in tone — you can embed inline tags directly in the target text, like [gasp], [giggles], or [angry]. This makes the model useful for narration, games, and dubbing where the non-verbal cues carry as much as the words." — Tongyi Lab 公式ブログ「Fine-Grained Tags For Non-Verbal Details」節より
公式が挙げるタグの例は [gasp](息をのむ)、[giggles](くすくす笑い)、[angry](怒り)です。ナレーション、ゲーム、吹き替えのように、言葉以外の合図が言葉と同じくらい意味を持つ用途で効いてくる、と説明されています。
きれいでない録音からの音声クローン
現実の参考音声は、たいていスタジオ品質ではありません。このモデルは狙いを定めた音響シミュレーションで学習させてあり、音声の補正がクローン処理そのものに組み込まれています。残響と雑音を抑えつつ、声色は保ちます。
"Reference clips from the real world are rarely studio-clean. Qwen-Audio-3.0-TTS was trained with targeted acoustic simulation so speech enhancement is built into the cloning path. The model suppresses reverb and noise while preserving timbre. In our high-noise and high-reverb tests, this release produced noticeably cleaner output than previous versions from the same degraded references." — Tongyi Lab 公式ブログ「More Robust Voice Cloning From Imperfect Audio」節より
公式は、雑音の多い入力と残響の多い入力での試験において、同じ劣化した参考音声から従来版より明らかにきれいな出力が得られたとしています。スマートフォンや会議室で録った音声のように、スタジオ品質でない素材でも扱いやすくなります。
クローンを使わずに済ませる道も用意されています。16言語分をそろえたプリセット音声のライブラリが同梱されており、自分で声を用意しなくても読み上げを始められます。
"A curated preset voice library spanning 16 supported languages, so you can ship a voice without cloning one first." — Tongyi Lab 公式ブログ「Also In This Release」節より
使い方と注意点
使い始めるまでの流れ
ここからは実際に使い始めるときの確認事項です。
提供形態と料金
入り口はひとつです。Qwen-Audio-3.0-TTS は現在利用可能で、Model Studio 経由のAPIとして提供されています。
"Qwen-Audio-3.0-TTS is available now. Grab the model here: API: Model Studio" — Tongyi Lab 公式ブログ「Try It」節より
価格については、発表ブログに記載がありません。導入コストを見積もるときは Model Studio の価格ページで確認してください。
音質の上限についても、いまは制約があります。48kHz(1秒間に4万8000回の細かさで記録する高音質)の音声出力は「近日提供」と案内されており、公開時点では使えません。
"48 kHz audio output (coming soon)." — Tongyi Lab 公式ブログ「Also In This Release」節より
高い音質が要件に入るなら、この点も確認が要ります。
音声クローンの悪用リスク
ここからは公式ブログが触れていない論点です。参考音声から声色を写し取れるということは、他人の声を本人の同意なく再現できるということでもあります。雑音の多い録音でも精度が上がったという今回の改良は、実務での使いやすさと同時に、悪用のしやすさも押し上げます。
なりすましの電話や偽の音声メッセージへ転用される懸念は、この種の技術に常について回ります。業務で音声クローンを使うなら、声の提供者から明示の同意を取ること、生成音声であることを開示すること、本人確認を声だけに頼らない運用へ切り替えることを、導入と同時に決めておく必要があります。技術側の対策だけでは埋まりません。
数字の読み方
公式の示す数値はいずれも自社発表です。そこを踏まえて読む必要があります。WER/CER と話者類似度は Tongyi Lab 自身の測定値であり、比較対象の「他システム」の内訳は公開されていません。Artificial Analysis の順位は第三者のランキングですが、順位は他社の更新で動きます。
導入を判断するなら、自分たちが読ませたい原稿と使いたい声で、実際に試すのが確実です。日本語の抑揚、固有名詞の読み、数字や英単語が混ざる文の処理は、平均値の指標には表れにくい部分です。生成AIの選び方全般は 生成AIの比較ガイド でも扱っています。
まとめると、日本語の読み上げを組み込むなら、応答速度が要る音声対話には Flash、ナレーションや吹き替えのように声の再現度を優先する用途には Plus という選び分けになります。声は自前で用意せずプリセット音声から始められ、話し方も自然な文章で指示できます。音響パラメータを手で調整する従来のやり方に比べると、導入の手間は小さくなっています。判断が保留になるのは料金と48kHz出力の2点で、どちらも Model Studio 側の情報が出てから詰める形になります。
読み上げAIは入力した文字数で課金される方式が一般的です。原稿の分量を事前に把握しておきたいときは、次のツールが役立ちます。
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